■第一章 目的と理論


[目的]
アルカリによる酢酸エチルの加水分解反応の速度定数と活性化エネルギーを逆滴定により求める。

[理論]
エステルの加水分解は酸およびアルカリによって促進される。酸による場合は一次反応であるがアルカリによるケン化の場合には二次反応となる。反応式は

CH3COOC2H5+NaOH=CH3COONa+C2H5OH・・・1

となる。
酢酸エチルの濃度の減少速度は酢酸エチルの濃度と水酸化ナトリウムの濃度との積に比例する。

-d[CH3COOC2H5]/dt=K[CH3COOC2H5][NaOH]・・・2

エステルの初濃度をa、アルカリの初濃度をbとして反応進行中のそれぞれの時刻におけるエステル濃度(a-x)、アルカリ濃度(b-X)を求める。これから速度定数Kが求められる。

 

CH3COOC2H5
NaOH
CH3COONa
C2H5OH
t0
a
b
0
0
t
(a-x)
(b-x)
x
x

2式に代入すると

-da/dt+dx/dt=K(a-x)(b-x)・・・3

da/dt=0 だからdx/dt=K(a-x)(b-x)となる。

変形すると

dx/(a-x)(b-x)=Kdt・・・5

4=5より

dx/(a-x)(b-x)={A/(a-x)+B/(b-x)}dx

1/{(a-x)(b-x)}=A/(a-x)+B/(b-x)

A=1/(b-a),B=1/(a-b)・・・6

6を5に代入すると

[1/{a-x)(b-a)}+1/{(b-x)(a-b)}]dx=Kdt

不定積分より

ln {(a-x)/(b-a}-ln {(b-x)/(a-b)}=Kt+C・・・7

ここで7に条件(t=0のときx=0)を代入し積分定数Cを求める。

C=1/(a-b)・ln(a/b)

これを7に代入

1/(a-b)・ln {b(b-x)/(b-x)}=Kt+1/(a-b)・ln (a/b)

変形すると

1/(a-b)・ln {b(a-x)/a(b-x)}=Kt

従って速度定数Kは

K=1/t(a-b)・ln {b(a-x)/a(b-x)}・・・8

8からKを求めると

d [ln {b(a-x)/a(b-x)]/dt=K(a-b)

従って縦軸にln {b(a-x)/a(b-x)、横軸にtをとるとその勾配が

K(a-b)=slope

K=slope/(a-b)・・・9

この実験ではアルカリの濃度が過剰であるために反応完結後にはエステルは完全になくなり、アルカリのみ残る。このときアルカリの濃度をbとすれば

a=b-b

(a-x)=(b-x)-b

となり結局アルカリの濃度を測定すればよいことになる。

一般に、反応速度は温度上昇にともない増加する。これについてArrheniusの式が成立している。

K=A・exp(-E/RT)・・・10

(T:絶対温度、E:活性化エネルギー、R:気体定数、A:頻度因子またはエントロピー項)

10の対数を微分すれば傾きが求まる。

ln K=ln A-E/(RT)

d(ln K)/d(1/T)=-E/R

ふたつの温度T1T2における速度定数K1、K2を求めれば

ln K1=ln A-E/(R・T1)

ln K2=ln A-E/(R・T2)

ln K1-ln K2=-E/(R・T1)+-E/(R・T2)

よって

ln(K1/K2)=-E/R(1/T1-1/T2)=-E/R{(T2-T1)/(T1-T2)}

となり

E=(R・T2T1/(T2-T1)・ln (K2/K1)・・・11

よって活性化エネルギーが求まる。