■第一章 目的と理論
[目的]
塩酸と水酸化ナトリウムの中和熱を、ベックマン温度計を用いて求める。
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[理論]
全ての塩類は溶媒に溶解するとき、周囲と熱の授受を行う。
このように、熱量の出入りがあるとき、この反応系全体が外部と熱的に遮断されている場合には、温度はこの系に独特な定数(熱容量)と熱量変化との積に比例して変化し、
ΔH=W・ΔT ・・・(1)
が成立する。
ここで、W は熱容量で、これに等しい熱容量をもつ水の質量で表し”水当量”という。
さて、W が既知の場合には、ある化学変化が起こり熱量変化がある場合、これに比例する温度変化 ΔT が実測され、直ちに熱量変化 ΔH が計算される。
次に、酸と塩基の中和反応は、温度上昇に伴う発熱反応であり、酸HAと塩基BOH間の中和反応は、イオン反応で表すと、次のようになる。
HA → H+ + A-
+ +
OH− + B+
‖ ‖
H2O AB
塩ABは多く完全解離し、中和分子と生成する。一般に水が反応主生成物である。
最初の酸、及び塩基が完全解離している溶液間で中和反応を行うと、次式のように1molの水素イオンと1molの水酸化物イオンから1molの水が生成する。
H+ + OH− → H2O + 13800 cal ・・・(2)
すなわち、13800cal がその中和熱である。
実験の要点は、測定に用いる装置(カロリーメーター)の特有の水当量 W が既知の場合に、温度変化ΔTを測定することが出来ることである。
この実験は、2つの点に分かれている。
・電気的加熱によって、熱量を加えカロリーメーターの水当量を測定する。
・中和熱を測定する。
いずれも式(1)を基本とするが、最初の場合は、ΔHを電気的に与えた熱量Qに置き換え、Qは次式で与えられる。
Q=I2・R・S/4.183
=E・I・S/4.183 ・・・(3)
ここで、Iは所要電流[アンペア]、Rは加熱体の抵抗[オーム]、Eは加熱体の端子電圧[ボルト]、Sは電流を流した時間[秒]である。
実際の測定値からの計算は、温度上昇を時間に対してプロットし、温度 - 時間曲線を描き、この曲線の比較的直線の部分を選び、近接した2点を曲線上に取る。
この点に相当する温度をそれぞれT1、T2、時間をt1、t2とし、ΔT=T2-T1 S=t2-t1 とする。