失敗から学ぶモノづくり創造

全国に高等専門学校(高専)が55校あり,モノづくり創造を教育目標に,科学技術創造立国を担う実践技術者の養成を推進している。創造とは,これまで世になかった未来のモノを創り生み出すことである。学生には,研究に際して失敗を恐れずまずやってみることを勧めている。そして,失敗したときのデータを真摯に検証してゴミ箱に抹消することなく,それに学ぶようにさせている。やってもみずして何も生まれてこない。本田宗一郎の弁に「最も大切なことは実際に試すことだ」とあるように,やってみるというチャレンジの資質がモノづくり創造には必要である。モノを作る過程での失敗は新発見への資産であり,「失敗は成功の元」そのものである。

科学技術が研究開発されていく中で生まれた失敗事例は,その特定された開発段階でだけ思考のベースとなっているものの,対外に公開されることがなかった。ところが,近年,科学技術の失敗から学ぶことの意義が認められ,研究者間に公開することが業績となりつつある。「失敗学」を学術的に取り扱おうとする学術団体(学協会)が結成されはじめている。文部科学省でも科学技術的失敗約600事例を集めた「失敗知識データベース」を2003年2月から試験的に公開している。H2ロケットの打ち上げ失敗でのエンジン故障など,担当技術者にとって苦渋の経験であったことを共有することで,失敗から学ぶことは大変多いものであり,極めて有用である。このデータベースは科学技術振興事業団で公開されている。

人間は必ず失敗するものであり,その失敗から学ぶことによって,人間の不徳とすること,無知,誤判断,不注意,検討不足,調査不足,事態変化への対応不足等からの失敗の繰り返しを防ぐことができる。先人が失敗したことを真摯に受け止め,不用意な過ちを繰り返さないことが技術者に必要な倫理である。モノが開発される段階までは何回失敗しても教訓となり,試行錯誤の思考過程である。その積み重ねがより良いモノを生み出すチャレンジ力となる。開発から最終段階となり,モノが世に送り出された後は,失敗は決して許されるものではない。絶対にやってはいけない失敗が過ちであり,欠陥である。

過ちを繰り返さない,モノづくり創造育成こそが,科学技術教育の根幹である。

〔吉村忠与志(福井高専)〕