オゾン層が支える人間社会

多細胞動物の代表である人間は、自分達の生活環境の快適さを確保するために冷暖房装置による空調技術を開発した。その根幹となる冷媒として、フロンを開発し、無秩序に大量生産、大量消費、大量廃棄してきた。そして、大気中にフロンガスを撒き散らすことに何も責任を感ぜずにいた。1974年にローランドが、成層圏のオゾン層を破壊している原因にフロンガスを警鐘するまで、そのガスは生物に無害で安全な化合物と信じられてきた。

ストロマトライトの出現によって、大量の酸素ガスが充満して、原始地球の大気は酸素汚染という、嫌気性生物には酸素毒という生命の危機を招いた。シアノバクテリアの酸素汚染によって彼らは全滅に追いやられるか、還元的な地中に深く潜り、酸素の無い世界での生活を余儀なくされた。危険な酸素をヘモグロビンという分子に結合して体内に取り込み、ミトコンドリアという細胞内小器官によって、酸素存在下で生きることを知った生物は進化し、多細胞動物の出現と生物の多様性が増加した。大気中の酸素の分圧が高まり、太陽光による紫外線は大気中にオゾン層を形成した結果、多細胞動植物は海中から陸上に上がった。成層圏に定常的に存在するオゾン層バリアのお陰で、原人という人類の出現を得たのが約160万年前のことである。そして、現在の人類になったのが1万年前である。

その時代に生きる地球生物に酸素の増加は生命の危機であったが、大気中の分子状酸素と成層圏のオゾン層は多細胞動物を出現し、人間社会を形成した。この多細胞動物は、原始大気中の主成分であった二酸化炭素を生命維持のために排出するだけである。酸素を創り出してくれたシアノバクテリアは、大気中に豊富にあった二酸化炭素と水から太陽エネルギーを利用して有機物と分子状酸素を生産し、生物の進化に偉大なる貢献をした。しかし、現代人類は快適な生活環境を得るために、フロンを作り大量廃棄をした結果、無責任にもオゾンホールを作ってしまい、有害な紫外線を照射されることとなった。
人間社会の営みによって起こしてしまったオゾン層破壊は、この瑞々しい地球環境を持続不可能とするものである。地球環境的視点からの人類の英知を結集し、オゾンホールの緊急なる繕いが必要である。人類の生命はオゾン層に支えられていることを忘れてはならない。

(吉村忠与志[福井高専])