快適な生活環境の功罪

先日、学校の都合で半日の停電があった。朝登校して自分の部屋に入り、入り口の照明スイッチを入れると点く筈の電灯が点かない。「今日は作業停電だった。」と思った瞬間から部屋のエアコンからの快適な生活環境が期待できず、朝一番に見る筈の電子メールもチェックできず、仕事にならない。部屋の窓を開けて、探してやっと見つけたうちわで扇いではみたものの、いつもの快適なエア環境が得られず、蒸し暑く不快になるばかりである。人工的に居住環境を調整する技術(エアコン)を獲得し、快適な生活環境の実現を追及してきた結果である。

夏も冬も快適な居住環境で生活することができる空調技術はわずか100年足らずのものであり、人類1万年の生存歴史に比べるとほんの一瞬であるが、この贅沢なエア環境がもたらす副作用から様々な地球環境の破壊と汚染を起こしてしまった。エアコンの冷媒フロンの安易な管理によってオゾン層を破壊し、地球を温暖化した。過度に人工化されたエアコン環境で冷房病という人体的ストレス症をも引き起こしている。人間は自ら獲得した科学技術をもって快適な生活環境を作ってきたが、それに伴う代償は、今後の人類の未来危機ともいうべき地球の環境破壊をもたらしてしまった。

人類が地球に居住し、地球そのものがもたらしてくれた自然環境と共存し、人という種における生態的な進化を遂げてきた。厳しい冬と夏、わりあい穏やかな秋と春の季節の変化に対応してきた。しかし、この100年の科学技術の発展によって快適な居住環境を獲得し、心身ともに慣れ親しんで、無くては数時間も居れないような虚弱体質になってしまった。忌々しきことである。この科学技術文明の元で、快適な環境とはどうあるべきかを、サステナブルな(sustainable)地球環境との共存とともにそれを再考しなければならない。サステナブルでない居住環境は、人工的快適を論ずる前に技術的に否定されるべきである。新しい快適な居住環境のデザインはサステナブルな地球の元であることが条件である。これまでの科学技術をもって熟考すれば、フロンの閉鎖系での完全管理技術、フロンに代わる冷媒の開発、環境と共生した居住空間の確保、など難しいことではない。今こそ、科学技術はサステナブルな居住環境の開発に貢献するべきである。

[吉村忠与志(福井工業高等専門学校)]