もののあわれという日本人の感性

 

日頃から自然に感謝する環境教育を推進する中で、藤原正彦著「国家の品格」というベストセラーと出会い感銘した。200511月に出た本だから遅くもないと思うが、今の日本人は一度は読破すべき本である。今の日本はマスコミが作り上げる世論に踊らされた論理が法律を作り、日本国民を統治している。その論理には情緒というものがない。

日本人は古来から自然に対する畏怖心から自然の神に跪く心を持って、自然に聖なるものを感じ自然と調和し共生する自然観を持って生きてきた。日本では弥生時代以来の農業による農耕文化をベースに今日を迎えてきた。自然が恵んでくれた穀物を食して生きてきた。

しかし近年は、市場原理主義の下、論理が情緒の上にあり、あらゆるものを征服する成果主義が横行している。そして、日本の農家は若手が工業経済に取られ、人工林の山は捨てられ、日本伝統の源泉である里地里山は荒れ放題となり、日本の美しい田園も豊かな自然情緒とともに失いつつある。1997年のFAOの報告によると、穀物の自給率は28%と極めて低い。経済大国日本で必要な食糧は輸入すればよいという論理にも正論はあるが、今こそ地産地消による食糧の自給は最も大切な国策でなければならない。

古来の日本人が築いてきた里地里山が崩れ行く姿にもののあわれを感じない日本人はいないはずである。自然の宝庫である田んぼは人手にあって日本の自然が生き抜けるものであり、人手がなければ美しい田園は荒地になってしまう。伝統的な自然美がなくなることはもったいないことである。何としてでも日本の農耕文化を守らねばならない。藤原先生は「国家の品格」の中で、日本の田園は経済市場原理により、ここ十数年ほどですっかり荒らされてしまったと言っている。以前のへ報告で、フード・マイレージが日本は2001年で7,093(tkm)と世界ダントツ1位であることを示したが、決して誇れることではない。農作物の自給率では1999年に40%となり、輸入に頼ることから、それに伴う水も640億トンという仮想水を輸入していることになる。水の豊富な日本においてこれだけ大量の水を輸入することはない。水こそ自給自足できるはずであり、そうすることは農産物の自給率を上げることに他にならない。そうすると、自然に調和してきた日本の田園風景がこれからも美しくあり続けることができる。それにはもののあわれという日本人の感性を再度呼び覚まそうではないか。

(吉村忠与志[福井高専])