今はリスク新時代

 

化学物質を取り扱う中で、功罪に当たる言葉としてベネフィットとリスクという語句を用いてきた。特に、環境問題を議論していく中で、「環境リスク」という観点からリスクという語句を捉えてきたが、田辺和俊著「ゼロから学ぶリスク論」(日本評論社、2005.10)を読んで、そのリスク論に感銘したので、一読を薦めたい。

最近、大きな事故や事件が多発しており、普段の生活をしていてもいつ何時それに遭遇してリスクを負わなければならないか分からない。朝学校に勤めてネットワーク・コンピュータに電源を入れると、スパムメールが山と着ており、出勤してまず行うことがスパムメールの処理であり、ITリスクはルーチンワークとなっている。電子メールやインターネットを利用する以上、ウィルスやスパムメールなどのリスクは覚悟しているのが現状であり、この現代がリスク新時代だと言われるとそうかなと納得してしまうものである。

私は高専で、技術者倫理や地球環境という学科目を担当し、20世紀が残した科学技術の負の遺産を正視し、地球的視点からのバランスある技術者育成にエネルギーを注いでいる。そんな中で、田辺和俊先生はある大学で「リスクマネジメント」を教授しており、テキストとして先の「ゼロから学ぶリスク論」を講義資料としていると聞き、この時代でのリスク論の教授が重要であることを改めて認識した。田辺先生はリスクを「事態の確からしさとその結果の組み合わせ、または事態の発生確率とその結果の組み合わせ」と定義し、リスクの大きさを次の式で定義している。

リスク = 損害規模×発生頻度

この定義式はリスクを評価するのにきわめてわかりやすい。損害規模という因子と発生頻度という因子の積で表されており、それぞれの因子の大小によってリスクの大きさが評価される。パソコン関連では、マイクロソフト社のWindowsOfficeなどはインターネットによるリスクという洗礼によってますます強靭なものとなり、今やなくてはならないものとなってしまった。特に、インターネット・ブラウザーのIE(インターネット・エクスプローラ)はウィルスに犯されやすく、なるべき利用しないようにと言われた頃があったが、WindowsOfficeのバージョンアップがIEを通して管理されており、IEも欠くことのできないものとなっている。

科学技術の世界にリスクマップを先の2つの因子で描き、それによるリスク評価の下でその運用がなされる時代、今はまさにリスク時代である。

[吉村忠与志(福井高専)]