日本文化は食育から

 

学校教育に関わり、若者の人格形成を見守っていると、精神科医でないと世話が出来ないような症例に遭遇し、どう対処したらよいのか悩むことが多くなっている。以前だと、「あいつはダラしないから厳しく躾けなければ。」と、厳しく指導したものである。しかし、同じような態度をとる若者が「うつ病だ」と診断されると、学生を指導するにも二の足を踏んでしまう。医者でもない素人が拘ることではないと尻込みする。しかし、最近、うつ病に罹る人が多く、周りで放っておけない状況にあることも事実である。

若者には朝食をとらず朝起きの苦手な者が多く、そのような者がうつ病に罹るようである。ある精神科医によると、朝九時までの光を浴びて、ご飯に味噌汁の朝食をきちんととる者にうつ病に罹る者はいないと言う。うつ病では脳内神経活性物質セロトニンの分泌が悪いことをあげている。人間の喜怒哀楽という感情をリセットするためのスイッチ的物質がセロトニンである。セロトニンが不足すると、感情の切り替えが出来ずうつ病になりやすいといった指摘がある。美味しいものを食べたとき、「美味しい。」を連発し幸せな気持ちになると、脳内にセロトニンがよく分泌されるらしい。

日本の食文化は多様であるが、欧米を中心とした食のグローバル化が進み、日本食文化を支える農業と水産業は衰退し、食糧の自給率が低下し先進国の中でも世界一悪い。BSE騒ぎの中でも外圧に押され、アメリカ牛肉を輸入し、自給自作への道に進もうとしない政策を支持する世論がある。人口増大の地球にあって、食糧は戦略的兵器になっていることを日本人は悟らなければならない。見た目にきれいな食糧には残存農薬が多く、抗生物質で育てられた食物が多い。そんなものが安く手に入るからといって輸入して自給率を下げ、農水産業の自力を弱体化させている。そのような食材で加工されたコンビニ弁当で食事を済ませている家庭が多い。「これでいいのか、日本食文化は…」と危惧している。

日本食は海外でもヘルシー食と言われ、健康によいことは立証されている。日本食の優れ点は、カロリーが理想的で、栄養バランスが整っており、食材がヘルシーなことである。日本食に支えられた日本文化が、当の日本で忘れかけている。外国では、食事の前に「ありがとう。」というが、日本では「いただきます。」という食に対する畏敬の念を文化の基礎となっている。自然のものに対する畏敬の念こそ、日本の食文化である。

家族団らんでおふくろの味の朝食をとり、規則正しい一日を始めることが大切である。日本文化を再教育することが今必要な食育であり、うつ病に罹りやすい若者を救う道である。地産地消の食材で作る日本文化の食育を進めなければならない。

[吉村 忠与志(福井高専)]