プラスチックは腐るものか
木材や農作物から得られた高分子材料を用いてものづくりを行っていた時は、「丈夫で腐らない材料はないものか」と材料開発が進んだ結果、腐らない材料としてプラスチックが生まれた。高分子材料の代表として、セルロースとポリエチレンを例に挙げて考えてみよう。
セルロースは天然高分子で、生体からもたらされた物質であるが、ポリエチレンは合成高分子で、化石燃料から生産された物質である。セルロースを分解するセルラーゼという酵素が自然界にあるために、セルロースは自然に分解して朽ちてしまうが、ポリエチレンはいつまでも朽ちることなく腐らないものなのである。化学者がポリエチレンというプラスチックを合成したとき、この特徴を「腐らない材料」としての性質を優先して材料開発を推進した。しかし、その性質をその材料の用途にまで言及しなかったことが、今日の地球環境問題を引き起こしてしまったといえよう。ポリエチレンは自然界にとってはキメラ的な存在であり、生態処理することのできない物質であった。自然分解しない性能を利用して、食品等の容器包装にその用途を求めたところまではよかったが、その中身がなくなった時点での廃棄処理において、「それは自然には分解しないので、絶対に捨てないでください。」と容器に告示することはなかった。営利を優先した人間の浅墓さである。ポリエチレンのみならず、すべての化石燃料由来のプラスチックは自然には戻らないのが特徴である。
人間が合成したものであってもポリエチレンを分解する仮酵素”エチラーゼ”なるものが存在しておれば、自然界に捨てられたポリエチレンも自然に帰ることができたかもしれない。逆に発想すると、ポリエチレンもセルロース同様に腐る高分子であったなら、人間は「腐らない高分子」を求めていまだにない技術開発を進めていたかもしれない。たまたま、化石燃料という石油に注目して高分子材料を開発したため、自然界には分解するものが自然発生していなかっただけである。
近年、「自然に分解するプラスチック」としてポリ乳酸が注目を集めているが、これはトウモロコシ等の天然物に素材を求めたために生分解性プラスチックとなりえたといえる。すなわち、腐るプラスチックである。プラスチックの原料を化石燃料に求めた付けが環境破壊を招いたといっても過言ではない。
(吉村忠与志[福井高専])