効率主義からの脱皮

 

4月の尼崎市JR福知山線脱線事故の原因は、脱線した快速電車が現場カーブ手前まで制限速度を超える126km/hrで走行していたためと断定され、大幅な速度超過の人身事故と断定された。この列車の運転手は停車駅のオーバーランなどでダイヤの遅れを挽回するために速度超過の運転を行っていたようで、その行為は乗客の命と背中合わせの効率主義が生んだ人身事故である。

国交省は、新型列車自動停止装置(ATS-P)をカーブ路線に設置を義務付けているが、ハードだけに頼る運行過密ダイヤでは問題は解決されない。科学技術の発展も効率主義が当たり前になっている。効率がよく生産性のよい作物を求めて、遺伝子組み換え農作物が開発されている。効率を求めることは悪いことではないが、動植物は自然淘汰という地球環境での摂理によって淘汰されてきた。科学技術は効率を求める余り、自然淘汰という自然スピードに飽き足らず効率のよい遺伝子を組み替えるという人工スピードを得てしまった。そして、生産性を高めた遺伝子組み換え食品が市場を埋めつつある。この地球には自然と共生した農耕によって食糧を得ながら生計を立てている国民もいる。グローバルな経済活動の中で人工スピードを味わうだけでは済まなく、自然スピードを守る農耕活動にまで人工スピードを要求し、自然を破壊していることを認識する必要がある。人工スピードは自然を保護していない。

農業の効率主義は環境にとって決してよいものではない。農薬という殺虫剤や除草剤を多用したり、人工管理のビニールハウスで効率よく農作物を生産することはよい方法ではない。自然環境のシステムに反した農耕を維持しようとすればするほど、そのための資源やエネルギーを浪費しなければならず、土壌という自然環境をも破壊してしまう。一方で無農薬栽培をしていても、隣の農耕地で農薬を撒けば害虫は農薬を避けて無農薬農地に移動し、自然は破壊される。まさに効率主義がまねいた自然破壊である。

スローライフ時代にあった古い価値を新しいシステムの中で豊かな価値を見出す。自然環境との共生リズムを認識して、品種改良による農作物を見直し自然スピードで生かされる農作物を生産する。農薬づけの形の美しい作物を求めず、自然との共生の中で作られる農作物を食することを誇りとする食文化を構築しよう。農作物に限定した科学技術となってしまったが、効率主義という観念からの脱皮をして、自然スピードでの技術開発を目指そう。

[吉村忠与志(福井高専)]